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かぶ

ダチ→スキ→カノジョ? - 01

 正直なところ、はじめのあいつの印象は、「いけ好かないヤツ」だったんだよな。
 だってさ、背ぇ高いし、ヒョロい男と変わらないガタイだし、肩より少し長い髪を一つに束ねた横顔はそこらの連中よりよっぽどイケメンだし、服のセンスもやけにいいから似合ってない事はないし、性格もサバサバしてて、故に妙にオンナにモテる。
 女の癖に。
 そう、あいつは――梨尾比佐子(なしお ひさこ)は女なんだ。
 だけど性格にしろ行動にしろ女っぽいところがこれっぽっちもなくて、俺らは最初の衝突――つまり、狙ったオンナがあいつ狙いと知ってむかつく――の後は、本当に普通に、まるでそう、そこらへんに何人もいる男友達みたいな感覚で、あいつとつるむようになった。
 実際、あいつがツレにいると、ナンパ成功率が並じゃないんだよな。逆に、コンパには絶対連れていけねぇ。俺はまあ、性格も見た目もコレだから不自由はしないけど、そうじゃない連中からしたら、俺とあいつはナンパにおけるエサでコンパにおける敵。そんなスタンスだった。
 あいつはそんな事には既に慣れていたのか、大して気にしてない様子で俺らに誘われるまま街に出かける事も多かった。何人かの女友達もいたらしいけど、どうも彼氏をほしがってるコには地味に敬遠されていたらしい。まあ、当然だろうな。あんなイケメン(女だけど)が側にいちゃ、男はどいつもこいつも声かけるのに二の足どころか三の足、四の足ぐらいまで踏みそうだ。
「だからさ、ナンパされたくない気分の時なんかは誘ってもらえるんだけど、ナンパされたい時は絶対来るなって言われるんだよね」
「うわ、ヒデェ」
「……いや、あんたたちも変わらないし。あたしの事、ナンパのエサにしてながら、飲みには絶対誘ってくれないじゃない」
 そんな会話をしていたのは、新歓コンパのラッシュが終わり、うっとおしい梅雨も明けて夏を目前にしたとある午後の事だった。
「あー……でも、俺もおんなじ扱い受けてるし」
「だけど山上(やまかみ)は最終的には参加してるじゃない。やっぱ不公平だって」
 スタバのテーブルに肘を突き、手の平に顎を乗せてボヤく梨尾は、淡い黄色のぴたりとしたポロシャツの上からデニムの黒い五分袖ジャケットを合わせ、タイトなジャケットと同じ生地のジーンズを履いている。典型的過ぎて一歩間違ったらダサくなる組み合わせだってのに、スタイルがいいせいで全然ダサくは見えない。
 今日みたいな格好をしていれば、男と見間違える事はめったにない。だけど時々こいつは平気で男物なんかも着たりするわけで、上に厚手のジャケットなんか着ていると、胸のふくらみが隠されるせいで本当に男にしか見えなくなるんだ。
 おかげで俺と梨尾が二人で街中をブラついていると、逆ナン率がとんでもない事になる。
 そんな事を考えながらも、俺は微妙な罪悪感に駆られて切り返した。
「けどさ、梨尾がああいう席に行ってもいい思いしないだろ。男はお前を女扱いしないし、女もお前を男扱いして、男じゃないってわかったらほったらかしじゃん」
「まあね。だけど、最近仲間外れにされる率高すぎてちょっとやだ。たまにはさ、そういうの目的にしない仲間内だけでの飲み会とかやろうよ。したらあたしも気兼ねせずに参加できるでしょ?」
「仲間内でか……なら、近々海行こうぜって話でてるから、それ利用する?」
 思い付きを口にすると、コーヒー・フラペチーノのストローから唇を離し、拗ねたように返した。
「海って、それ、思いっきりナンパ目的ですって言ってるみたいじゃん。それじゃああたし、水着になれないし。まさか一人だけショートパンツにシャツ着てろとか言うわけ?」
「だーかーら、ナンパ目的じゃなくて、純粋に仲間内での交流を目的にするんだって。どうせ休みが来たら、バイトとナンパにかまける事になるんだし? 今からその前哨戦やる必要ないじゃん」
「ふーん……ま、説得方面は山上に任せる事にするよ。期待しないで待ってるから」
 本気で投げやりにそんな事を言って、梨尾はぺちゃりとテーブルに突っ伏す。
 なんだこいつ。やけに弱ってんじゃねぇか。
「梨尾、どうかしたのか?」
「あー……お腹、痛くて。薬飲んだんだけど中々効いてくれないんだよね……」
「腹? 冷えたとか? 便所ならあっちだけど」
「……ほんと、こんなデリカシーない男の何がいいんだか……」
 まるで呪うような声でそう言って、梨尾は俺から顔を背けた。その態度にむっとして、けれどすぐに一つの可能性に行き当たる。
「て、まさか生理つ――」
「言うな!」
 とんでもない反応速度の容赦ない鉄拳制裁を受けて、俺は見事にスツールから転げ落ちた。
 ちくしょう、やっぱこいつ、女じゃねぇ……


* * *

 で、あっちこっちの関係者を何とか言いくるめて実現させました、仲間内での海バーベキュ-。
 正直あの鉄拳食らった直後は思いっきり反故ってやろうかとも思ったんだけど、そんな薄情な事を考えるたび、目の前にあいつの寂しそうな表情がやけにちらついて、最後には一方的に根負けする形で動く羽目になった。
 だけどイベントが形になったと告げた時の梨尾の嬉しそうな顔に、俺はよくやった俺、と、珍しく自分を褒める気になったのだ。


 俺が取りまとめ役になった海バーベキューの日、それはそれはイベント日和としか言いようがないほどにぴっかぴかの晴天で、海開き直後の海岸にやってきた俺たちは、車から機材を降ろすのももどかしく、砂浜へと駆け出した。
 やってきたのは同期の一人がどこからか見つけてきたレンタルできるプライベートビーチで、そんな悪くない値段で一日人ごみの少ない海辺を借り切れるってので、俺たちはそれに乗ったのだ。
 なにしろナンパが二の次のイベントだ。だったらいっそ、狙いたくなるような連中のいないところに行く方が得策だ。まあ、どうしても物足りなくなったりしたとしても、海岸を遮っている岩場の向こうに行くだけで一般向けの海岸に出られるとかいう話だから、あんまり問題はないだろう。
「よし、じゃあ男は設営しようぜ。その間に女は着替えてこいよ」
「着替えるも何も、中に着てるわよ」
「そうそう。面倒だもんねー」
 珍しく仕切ってみれば、声を合わせて返される。むっとして、俺はからかい混じりに言った。
「へぇ? なら、俺らの前で脱いでくれるとか?」
「バーカ! 誰があんたらなんかに脱ぐとこなんか見せるってのよ!」
「山上君のえっち!」
「ほら、比佐子もあっち行こ。あんなヤツとつるんでたら、その内変態菌うつされるよー」
「てめっ、変態菌ってなんだよあぁ!?」
 声を荒げると、女たちはきゃーと楽しげに叫んで簡素な小屋へと駆けていく。プレハブ作りのそれは中に脱衣室とシャワールームが設置されているとの事だ。
「ったく、あいつら本気で俺の事からかいネタとしてしか見てないよな……」
「まあ、お前ってそういうキャラだし」
「っかしいなぁ。最初はあいつらも俺狙いだったはずなのに、なんでこうなってるかなぁ……」
 ぶつぶつ言いながら、先に設営に入っていたヤローの中に紛れる。俺のボヤキを聞きつけて、受験以来の腐れ縁である鹿田(しかた)があっさり告げた。
「だってお前、どの子にも『本気じゃないぜ。遊びだぜ』って態度で接してるし、誰かと付き合いはじめても梨尾とつるんでる事のが多いし」
「そりゃあ……あいつ、やけに趣味合うし、肩肘張らなくていいから楽でさ。お前らと違ってバイトばっかやってるわけじゃないから暇あるし」
「へぇ。暇、ねぇ……」
 なにやら意味ありげに俺を見て、鹿田はバーベキューコンロへと意識を戻す。
「んだよ」
「別に。お前が知らないならそれでいいさ。てかお前、材料とってこいよ」
「は? 何で俺が?」
「お前だけずっと働いてなかっただろ。労働は平等に」
「へーへー」
 やる気なく言葉を返して車へと向かう。クソ重い袋を一人で抱えて戻った時には、既に火も入れられていて、網が熱されるのを待って焼くだけ、ってな状況になっていた。
「……うわ、お前ら手際いいな」
「これくらい普通だろ」
「普通って、鹿田、お前手馴れすぎなんだよ。俺らほとんど何もしてないし」
「マジ? これ、ほとんど鹿田がやったの?」
 どさりと折りたたみ式のテーブルに食材を置きながら、俺は鹿田を振り返る。ヤツは苦笑気味に肩を竦めるだけで、答えを返そうとはしなかった。
「まあ、用意できたってだけでいいじゃん。それより女子は?」
「あー……そろそろ来るんじゃね?」
 まるでその言葉を待っていたかのように、遠くからきゃいきゃいとはしゃぐ声が聞こえてきた。反射的に、男たちが全員ものすごい勢いで振り返る。
 今日の面子は男四人に女四人。うち一人はオトコオンナだから微妙な人数だよなぁとか思っていた俺は、次の瞬間頭の中が真っ白になった。
「うそ……あれ、マジで梨尾……?」
 そう呟いたのは一体誰だったのか。俺かもしれないし、他のヤツかもしれない。もしくは誰も言っていないのか、全員が言ったのか。
 カラフルなビキニやセクシーなハイレグのワンピースなんかの中で、一人だけ色気のない青と黒の競泳用水着を着ていた梨尾は、服の上からじゃ想像できなかったスタイルを惜しげもなく晒していた。
 背は高いし、体格もそこらのオンナに比べればしっかりとしている。だけど腰の位置は高いし、手足もすらりと長く、きびきびとした動きに見合ったしなやかな身体つきだ。ていうか、細いのは細いけど、そこらにいるオンナたちみたいに痩せてがりがりなわけじゃなく、筋肉質で無駄な肉がほとんどついてないってだけなんだと、はじめて気づいた。何よりも俺の目を引き付けたのは、大抵は服で隠れている――否、意識的に隠されている胸。それは、どうしてこれまで気づかなかったんだと本気で自省するだけのボリュームを誇っていた。
「あいつ、本当にオンナなんだ……」
 その声が聞こえた瞬間、俺は自分でもわかるくらい鋭い視線を向けていた。
 俺自身が梨尾をオンナ扱いしてなかったってのに、なぜか他の男があいつをオンナとして見るのがやけにムカついたんだ。
「うわ、男どもけっこうやるじゃない。てっきりまだ手間取ってるかと思ってた」
「だよねー。着替えながら、あたしらがやらなきゃならないんじゃないかって話してたんだー」
「材料とかはもう切ってるんだよね? ならさ、早く焼こうよ。アタシお腹すいたー」
 好き勝手言いながらこっちへとやってくる女どもに、俺以外の男たちはようやく梨尾から視線を切り離せたらしい。
 だけど俺は。俺だけは、どうしても梨尾から、視線も意識も切り離せなかった。