Truly Madly Deeply - 24
それが原因だろうか。いつもならブラのホックを外すと開放感を感じるのに、今日はとても無防備な気分だ。
動くに動けずその場で固まっていると、背後で隆が動く気配がした。なんだろう、と思っていると、衣擦れの音にぱさり、と布を床に落とす音が重なる。彼もシャツを脱いだのか、と頭が理解するまでに、いつになく時間がかかったような気がした。
「峰倉」
低い声が呼びかけるのと、熱の篭った指先がブラのストラップに触れるのはほぼ同時だった。
「外しても、いい?」
「い……いよ」
震える声で返せば、ほとんど間を置かずにするりと肩から腕へとストラップが滑り落とされた。その軌跡を辿るように隆の指が肩から肘までのラインを触れるか触れないかという絶妙なタッチで撫で下ろし、依子の腕を解いて小さなレースの下着を完全に取り去ってしまう。
それを意識する間もなく、きし、とベッドのスプリングが軽い音を立て、マットレスが依子の後ろで沈む。動きの鈍った頭が状況の遷移を考えるより先に、現実が依子に触れてきた。
背中から優しい力で抱きしめられる。布越しでなく肌と肌が触れ合った瞬間、ぞわりと全身を電流が駆け巡った。
「ぁ……」
「峰倉?」
いつもより低く掠れた声が呼びかけ、依子の顎を捉えた隆の指が促すように後ろを振り向かせる。
後ろから抱きしめられるのは嫌いじゃない。だけどちゃんと正面から向き合いたくて、依子は身体ごと隆を振り返った。
オレンジ色の淡い光の中、日に焼けた色濃い肌に目が引き付けられた。夏の薄い服越しにも隆がしっかりした身体付きだという事はなんとなく知っていたけれど、まさかこんなだとは思ってもなかった。
成長途上なため、身体に厚みはあまりない。それでも毎日参加している部活のトレーニングにより、しっかり定着している筋肉は見るからにしなやかだ。アスリートらしく弛みのない、むしろ骨ばった印象の上半身に、依子は純粋に見惚れてしまう。
「そんなに珍しい?」
問いかける苦笑混じりの声に、依子ははっと意識を現実へと戻す。そこでようやく自分が不躾にも隆の身体を凝視していたと気づき、さっと顔を赤らめた。
「珍しいっていうか、その……なんていうか、男の子の身体だなって思って……」
「そりゃ、男だから。峰倉だって、女の子の身体だ」
言いながら手を伸ばし、隆はふわりと依子の身体を自分へと引き寄せる。体勢を崩した拍子に胸を隠していた腕をベッドに突いたため、隆が彼女を抱きしめた時、裸の胸と胸が遮るものなく触れ合っていた。
密着する肌を通して、とくとくと小刻みにリズムを刻む鼓動が聞こえてくる。緊張しているのは自分だけじゃない。頭でなく心と身体でそれを知って、依子の肩からふっと力が抜けた。
「……峰倉」
呼ばれて顔を上げれば、そのまま唇を奪われる。浅く深くキスを繰り返しながら、隆の手の平が依子の肌を彷徨う。緩慢に触れてくる手と甘美な感覚を与えてくる唇に意識を取られすぎていて、背中が柔らかいリネンに触れるまで押し倒された事に気づけなかった。――隆が上掛けを、除けていた事にすら。
小さな身体を押しつぶさないように気をつけながら覆いかぶさり、何度奪っても飽き足りない唇をもう一度甘く奪って顔を離す。まっすぐな瞳で見つめてくる愛しい少女に微笑を返し、隆は身体の位置をずらして落ち窪んだ喉の下、鎖骨の間に吸い付いた。
「っ、ん……」
小さく漏れた愛らしい声に、情熱が掻き立てられる。そのまま唇を滑らせ、呼吸に合わせて上下する柔らかな丸みの先端を優しく咥えた。
「くん……ふ、……んんっ」
隆が愛撫を重ねるたび漏れる声が恥ずかしくて、依子は先程から口を手で押さえていた。なのに、時々身体の奥を貫く強い感覚は彼女の些細な努力をあっさり打ち消してしまう。
やわやわと隆の大きな手が左の胸を包み込み、意地悪な指先が先端の飾りを摘むように刺激している。唇にとらわれた右の胸は、不規則に舐められたり吸われたり甘噛みされて、そのたびにこれまで生理の時ぐらいしか存在を思い出さない場所がきゅうと引き絞られる。そしてそこから全身へと向けて、じわじわと甘い痺れと熱が送り出され、依子から思考力を奪っていく。不意を突いて与えられる電流に似た感覚は依子の背を反らさせ、その原因である隆に身体を押し付ける結果を生み出す。
そんな反応がどうしようもなく恥ずかしいのに、時々こちらへと視線を向ける隆があまりに幸せそうな顔をしているから止めてと言う事もできない。結局のところ、隆から与えられる未知の感覚を甘んじて受け入れるしか、依子に道はない。
隆がようやく胸から離れた時、依子はこれで終わりかと、密かに安堵の息を吐いた。けれどそうじゃないと気づいたのは、彼が更に下の方へと手を伸ばした時だった。
平らな腹部を熱い手の平が円を描くように撫で、イージーパンツのウエストへとかかる。その手がパンツを下げようとしているのだと知り、依子ははっと息を呑んだ。
彼女の変化を敏感に感じ取ったのだろう。動きを止めようとする隆に、依子は小さく、けれどはっきりと首を振った。
「峰倉……」
「気に、しないで。嫌じゃ……ないから」
微笑もうとして失敗する。歪な笑みを浮かべてしまったと気づくと同時に、依子は心の中で自分自身を責めた。
これじゃだめだ。こんな顔を見られてしまったら、きっと彼は――
「わかった。じゃあ、自分で脱ぐならいい? 俺も脱ぐから」
あやすように微笑んで、隆がきゅっと寄せられた眉根にキスを落とす。目をぱちくりとさせて見上げると、隆はわかっているよ、とでも言うように頷き、身体を起こして依子に背を向けた。
ベッドの端に腰掛ける隆の背中越しに、ジーンズのボタンとジッパーを外す音が聞こえてようやく頭が動き始める。自ら行動に移す事で少しでも依子の恥ずかしさを減らそうと気遣ってくれているのだと気づき、依子は力の入らない身体をゆっくりと起こした。
こちらを向いていない事はわかっているけれどなんとなく隆に背中を向けて、イージーパンツに手をかける。下着をどうしようと束の間考え、この際なのだからと意を決して両方一度に脱ぐ事にした。
脱いだ服を軽くたたんでベッドの下に置く。それからくるりと身を翻して壁際へと寄せられていた掛け布団に身を包んだ。
ジーンズと下着を脱ぎ捨て、足元のスポーツバッグから帰りがけにコンビニで購入した包みを取り上げる。
依子が部屋に来ると決まった時点で、きっと帰したくなくなるとなんとなく予測できていた。だから隆は電車を待つ時間を利用して念のためにと買っておいたのだ。一応、中等部の性教育で貰ったものがあるにはあったけれど、いくぶん古いものである上に、学校で貰ったものを使うのは、さすがに気が引けた。
包装を解いて箱を空け、中から薄っぺらくて小さな袋を取り出す。ビニールの端を一息に破って中身を取り出し、習った事を思い出しながらすでに痛いくらい張り詰めている自身へと装着した。
そうして振り返った先に蓑虫のごとく掛け布団に身を包んだ依子がいて、その姿と、そんな格好にならざるを得なかった彼女の心情に、自然と笑みが零れた。
「……峰倉、それじゃ俺が入れない」
「あ、ごめん……はい」
笑いの滲む声に指摘されて、依子は身を包む上掛けをほんの少し緩める。そこから冷やりとした空気と一緒に隆の身体が滑り込んできた。素肌と素肌が触れるたび、不規則に心臓が撥ねる。けれどそれはむしろ何かを期待しているようなそんな奇妙な疼きを伴っていた。
「峰倉」
耳元に囁きが落ちた刹那、背後から伸びてきた腕に抱きすくめられる。隙間なく全身がぴたりと触れ合って、ほんの少し収まりかけていた熱が一気に勢いを取り戻す。
腰から回された手はゆっくりと彼女の身体の前面に触れては移動する。やんわりと胸を揉み、首筋を擽って、お腹を撫で――柔らかな茂みに触れた。
頭ではわかっていても、実際に触れられると、どうしようもないくらいの羞恥が湧き上がってくる。けれどぎゅっとシーツを握り締めて、零れそうになった声を抑え込む。
茂みを掻き分けて指を進めると、ぷくりと膨らんだ芽に触れた。瞬間、腕の中にある少女の身体がこれまでで一番激しくわなないて、ここが敏感な場所なのだと知る。反応を窺うように触れ、優しく捏ねると彼女は身体を震わせながら喉の奥で甘い呻きを漏らす。その甘美な響きにうっとりと聞き惚れながら目の前の細い肩に唇を寄せ、隆は更に指を奥へ伸ばした。
つぷり、という感触と共に、潤沢すぎるほど潤った割れ目に指が埋まる。すでに彼女の身体が自分を受け入れる準備を整えつつあるのだと知り、張り詰めた欲望が一層力を増した。
「な、に? っ、あ――!」
「峰倉?」
「っ、えと、その……なんでも、ない」
「なんでもないって声じゃないけど?」
「本当に、なんでもない、の。ただ、その……当たって、びっくりして」
最後の言葉はかろうじて聞き取れたくらい小さなものだった。
その意味するところを悟って、隆は自身の顔が一気に熱くなるのを感じる。
「あー……そりゃ、当然だろ。峰倉とこんな事してるんだから。けど……峰倉も、ほら」
言いながら指を軽く前後させると、粘りけのある液体が指に絡みついた。
「言、わな…いで。ちゃんと、わかってる、から……」
シーツに顔を埋めて小さな声で抗議する依子に、隆はごめんと低く謝罪する。けれど指は止めない。何度もぬかるみの中を往復させ、蜜が溢れ出てくる入り口に当たりをつけてそっと差し込んだ。
「っ」
「――痛い?」
小さく、けれどはっきりと首が横に振られるのを見て、隆は更に指を深く挿入する。意外なくらいすんなりと彼の指を飲み込んだそこは、身体の表面とはまた違う熱さと柔らかさを持っていて、ねっとりとした質感を持って隆の指にまとわりついてくる。そこに入り込むのだと考えるだけで暴発しそうになる己を抑えつつ、ゆっくりと指を抜き差ししはじめた。
生理の時に何度かタンポンを使っていたから、そこに指ぐらいの太さのものなら受け入れられるという事は知っていた。だけど実際に他人の指をそこで感じると、痛みよりも違和感の方が大きかった。更にその指が中を掻き混ぜはじめると、身体だけじゃなく頭の中も一緒に掻き混ぜられたような気分になった。
身体に愛撫を施されていた時に感じていたのは、多分きっと快楽と呼ばれるものだろうと思う。だけど中を愛撫されている今、依子が感じているのは、身体に触れられていた時のようなわかりやすい快楽とはまた違う――怯えと羞恥と、それから僅かな安堵感の入り混じった、どこか得体の知れない感覚。
ただ一つ、はっきりとわかっているのは、自分はその感覚を嫌だと思っていないという事だけ。だからぎゅっと目を閉じて、その感覚を甘受する事にした。