かぶ

君だけの僕 ― 夕立は嵐の前触れ 04 ―

 僕をこれ以上にないほど優しくあたたかく迎え入れてくれるワカの中に身を沈める瞬間。それは僕にとって最も幸福な苦しみを味わう一時だ。
 何も考えず自分の快楽を追い求めて色欲に狂ったケモノのようにワカを貪りたいという強烈な衝動と、ワカに僕が与えうる最高のものを与えたいという心からの望みの間で僕の心は激しく揺れ動く。
 時々、どうしようもなくワカに飢えている時は心のままにワカを奪ってしまう。けれどそこまで切羽詰っているわけじゃない今日のような夜は、苦しいまでのジレンマをなんとか耐え抜きさえすれば、有り余る朝までの時間を有効に使う事ができる。
 僕はワカしか知らないし、他の女性を知りたいとも思わない。だからセックスが上手いわけじゃないと思う。アダルトビデオも気持ち悪くて見る事ができないクチだから、僕たちが抱き合うようになった当初は、ワカには「これ何のいじめなの!?」と怒られながらも、ワカに一々どこがいいのか、どう触れるのがいいのかを確認しながらの行為だった。
 繋がったまま、何度も口付けを繰り返す。きめ細かで柔らかな肌を丹念に指で辿り、唇と舌で味わう。いわゆる性感帯に触れれば、ワカの反応は確かに顕著になるけれど、本当に幸せそうな顔をしてくれるのは、実はキスをしたり、強く抱きしめたりした時なのだと、比較的最初の頃に気づいた。
 耳朶を柔らかく食みながら首筋を指で辿り、その跡を唇と舌で愛撫する。鎖骨の窪みに吸い付いて、つんと尖った胸の先端を優しく摘んだり、ふくらみをやわやわと揉む。こり、と、他のどの部分とも違う弾力を持つその蕾を唇に含んで舌先でちろちろと舐めれば、全身をぴくぴくと震わせながら僕をきゅうきゅうと締め付ける。堪えようとして堪えきれず漏れる艶やかな声に、僕自身が刺激されてびくりと大きさを増すのを自覚した。
「ワカ……綺麗だ」
「やぁ、い、わな……で」
「どうして? ワカが綺麗なのは本当なのに。好きだよ、若菜」
 瞳を潤ませて首を振るワカの顔を両手で包み、まっすぐに目を見つめながら想いを告げる。これまでにもう何回ワカに好きだと伝えただろう。伝えても伝えても足りない。いつだって愛してるし、この気持ちは毎日、毎時間、毎秒、毎瞬新しくなってあふれ出す。
「克己ぃ」
「ね、言って。僕を好きだって」
「……き、だよ。あたしは、克己が好き」
「うん。僕も好き。若菜が好きだ」
 幸せで幸せで涙が出そうになる。心の高ぶりに合わせてそっと身体を揺すれば、高く甘く啼きながら、ワカが僕にしがみつく。しがみついて、僕と同じリズムを刻む。
「わ、かな……イイ、よ。ああ……」
「んんっ、や、また大きくな……」
「あたりまえ。きもち、いいんだもん」
 小さく発せられた講義の声にちょっと苦笑して、またキスをする。唇で触れ合って、舌を軽く絡ませる。一度強く抱きしめてから身体を起こして、ちょっと寂しそうに僕をぼんやりと見つめるワカを引き起こした。
「っ――! や、克己ダメだってば!」
「どうして? この方がワカの事しっかり抱きしめられるし、キスだってできるのに?」
「だって、深すぎ……っから、大きくしないでよ馬鹿!」
「今のは可愛い事を言うワカが悪い。文句言うなら僕を煽らない努力してよね」
「――そんなの知らないもん。勝手に煽られる克己が悪いの」
「えー……って、ごめんワカ。こっち向いて。ねえ、僕を見てよ。寂しいよ」
 唇を尖らせてそっぽを向いてしまったその横顔にキスをする。宥めるように背中を撫でて、首筋に顔をうめて鼻先で髪の生え際をそっと撫でる。ん、と鼻から抜ける甘い声と、僕を締め付けるワカの身体が、僕を完全に無視してるわけじゃないって教えてくれた。
「意地悪な克己は好きじゃないよ」
「う……ごめん。もうしない、からさ。だから僕の事、好きでいて?」
「……もうしないって、そんな守れない約束されてもさ……」
 はぁ、と、一〇〇パーセント呆れた声に、僕はうん、ごめんとあっさり謝る。
「意地悪してるつもりはないんだけどね。少しでもワカに気持ちよくなってもらいたいとか、綺麗なワカを見たいって思うと、どうしてもしちゃうみたい。本能みたいなものだから、諦めてくれないかな。それに……本気で、嫌じゃないんでしょう?」
「うー……」
 意図的に意地悪く確かめる言葉を口にすれば、行為のせいだけでなく頬から首筋までを真っ赤に染めて、ワカは小さくこくりと頷いた。
「じゃあ、受け取って。僕を。一緒に気持ちよくなろう?」
 甘く低く囁いて、ワカの腰へと手を回す。ちゅ、と首筋に口付けて、腰を揺すり上げた。
「んぁっ、や、か、つみっ」
「ああ……ワカ、すごく綺麗だ。ね、ワカで僕を愛して。僕にワカを愛させて」
 その言葉にワカがそっと頷くのを確認して、僕ははっきりと腰を使いはじめる。深く浅く抜き差しを繰り返して、一番奥に先端を押し付ける。浅いところにあるワカのいいところを確かめて、確実にそこを擦りあげる。その度にワカは、僕の膝の上で淫らで甘美な踊りを踊る。上気してピンクに染まった肌をしっとりと濡らす汗。ぴたりと抱き合えば、そのまま肌が溶け合いそうな錯覚に陥る。
「ああっ、あん、あ、克己、かつみぃ……!」
「うん、ワカ。すごくイイ……」
「ほんとに? あたし、ちゃんとイイ?」
「そうでなくて、こんなになってるわけないでしょう? ――僕の事はいいからさ、ちゃんと集中してよ」
「ん」
 素直に頷いたワカはちろりと唇を舐めて、じっと僕を見つめてきた。
「好きよ、克己」
「僕もワカが好き。愛してるよ」
「うん。あたしも」
 囁き合いながら微笑みと口付けを交し合う。長く長く続いた唇だけでの愛撫の後、うっとりと目を閉じるワカの背中に手を添えて、僕はそっと彼女をベッドへと横たえる。僕の肩に添えられていた手が背中へと回されて、ほっそりと形のいい脚が僕の腰に回された。
「いい子だね。ちゃんと、僕に掴まってよ?」
「克己こそ、あたしを放さないでね?」
 もちろん、と笑いながらワカの額にキスを落とす。お互いに落ち着きかけているような、まだ燻っているような半端な状況にある官能を、穏やかな愛撫とゆったりとした交合で少しずつ高める。僕を受け入れ続けているワカのそこは、まるでワカの情熱を体現するかのように熱く、僕への執着を知らしめるかのように強く僕を締め付けて放さない。ワカからあふれ出した蜜で、二人の下半身だけでなくシーツまでもがしとどに濡れている。
「ふっ、ん、ん、ん、あ……あぁ……っ!!」
 先端でぐりぐりと、ワカのイイところのある辺りを集中的に刺激する。その度に上がる悲鳴のような嬌声と、下半身から脳髄へと送られる痺れるような感覚に、僕は少しずつ理性を手放していく。
「や、だめ、克己、あたし、もう――!」
「いいよ、イって。僕が一緒にいるから。ちゃんと抱きしめてるから……」
 怯えるようにしがみついてくるワカを一度だけ強く抱きしめて、僕はワカの胸と一番敏感な突起へと手を伸ばす。
「ああああああっ! 克己、ダメ、それダメだって……あ、や、ああ……ンぁああああっ!」
 強くなった刺激に強く首を振っていたワカは、けれど程なく全身を激しく痙攣させて上り詰める。ただでも放ってしまいそうな欲望をぎりぎりのところで押さえ込み、ワカその身体がふわりと弛緩するのをじっと待つ。
「か……つ、み……? まだ……?」
「うん。だから、もう少し、付き合って……?」
「……うん」
 けだるく微笑んで、ワカは力の入らない手を僕へと差し伸べる。指と指を絡ませあい、身体全体を重ねあって、僕らは再び穏やかに愛を交し合いはじめた。